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「さてと、その息子に会いたいという松山はどこにいるんだ?」
やる気満々といった様子のトッドが尋ねてくる。
「そうあせるな。時計を見ろ。もうすぐ午後6時だ。面会時間は終わりだぞ。」
腕時計を見たトッドは、失望の溜め息を漏らす。
「もう、こんな時間なのか。」
死神と人間の間には、時間の認識に大きな差がある。意識していないと、あっという間に時間が過ぎてしまうのだ。
「そう急がすに、役作りでもしたらどうだ。いきなり役を演じる俳優はいないぞ。」
「そ、そうだよな!まず、役作りだよな。」
高揚したトッドの様子を、キースが呆れた様子で見ていた。
「いいのですか?彼にこんなことを頼んで…」
ギグルの問いに、私は
「この役は松山の息子に似た彼にしかできない。」とだけ答えた。
「演じる前に、大まかな脚本を作らないとな。ドラマのタイトルは…そうだな、"父の遺言"ってのはどうだ?主演は俺、戸田直也。いや、主役は松山かな?まあいいや。出演は、俺と松山。」
トッドは「父の遺言」とやらの脚本作りにのめり込んでいる。
戸田直也というのは、トッドが日本で使用する偽名だ。
何でも戸田という苗字は、有名な映画字幕翻訳家のものをそのまま使ったらしい。
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