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トッドを息子役に抜擢したのはよかったものの、そのあとが大変だった。
「タナトス、お前が提案したんだからな。このドラマの監督はお前だぞ。ちゃんと演技指導してくれよ。」
すっかりその気になったトッドは、病院の近くにある公園に私を連れていき、そこでリハーサルを始めた。
「松山に会った時の最初の台詞は、やっぱり“父さん!”かな?」
そう言って、トッドは両手を広げ、松山の手を握る演技をする。
「やはり、先行きが不安ですよ。」
ギグルが深い溜め息をつく。
「ここで、感動的なBGMが流れるわけだ。どんな曲がいいかな?なんかこう、感動的で壮大な感じの…」
腕を組んで悩むトッドに、私は
「トッド、音楽は流れないぞ。」と言った。
横にいるキースは
「ったく、現実とドラマがごっちゃになってやがる。」
と頭を抱えている。
「実際には流れていなくても、音楽は頭の中で再生すればいいんだよ。」
トッドは「父さん、俺だよ!」というしらじらしい台詞を繰り返し練習している。
「おい、トッド、あまり芝居がかった演技をしないでくれよ。松山に不審がられたら困る。」
私の心配をよそに、トッドは公園で一晩中演技の練習をしていた。
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