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次の日の午後1時過ぎに、トッドと私は松山が入院する病院へと向かった。
父と息子の感動的な再会シーンを演じるためだけに、トッドは台詞や身振りに少しずつ修正を加えながら、結局午前中までリハーサルを繰り返していた。
「俺の初舞台だ。緊張するな。」
トッドより私のほうが数倍緊張している。
トッドの演技がまったくと言っていいほど下手だからだ。
「松山に挨拶して、少しの間息子として会話を交すだけでいいんだ。余計なことは言わず、きりのいいところで戻って来い。いいな?」
「はいはい。分かってますよ。タナトス監督。」
トッドは鼻歌を歌いながら歩いている。
ますます不安になってきた。
「人間の前に姿を現すには、どうすればいいんだっけな?」
病院の前に来たトッドが首を傾げる。
「もう切り替わっているはずだ。自動ドアの前に立ってみろ。」
トッドが病院の入口にある自動ドアに近付くと、ドアがスーッと開いた。
「お、すごいな。」
トッドが感嘆の声をあげる。
「おい、あまり大声でしゃべるなよ。周りの人間にはお前が独り言を言ってるようにしか見えない。」
「え?お前は姿見せないの?」
「監督はドラマに出演しない。」
息子との再開に、余計なエキストラはいらない。私は病室の外から様子をうかがうことに決めていた。
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