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全面が白で統一された総合病院の前で、私と上司は任務についての最終的な打ち合わせをしていた。
といっても任務の内容を大まかに確認するだけで、打ち合わせ自体にそれほど大きな意味はない。
「松山孝三、82歳。5日後に老衰で死亡する予定だ。」
上司は松山孝三に関する資料を読みながら、淡々と指示を出す。
老衰や病気で死ぬ人間を迎えにいくのは、私たち死神の任務の中で最も多い。時代や場所は違えど、私も数えきれない人間の最期を見届けてきた。今回は、そんなごくありふれた任務の1つを担当することになる。
「じゃあ、タナトス君、終わったら報告よろしくね。」
上司は松山孝三に関する資料を私に手渡すと、目の前から姿を消した。
「今回の任務に、別段変わったところは見当たりませんね。」
私が手に持った書類を見ながら、カラスの姿をした助手のギグルが声をかけてきた。
「ああ、死因は心不全とある。備考欄にも何も書かれていない。」
私は資料にざっと目を通しながら答えた。
病院に入って受付の前を通り、患者や職員、そして見舞い客で混雑する廊下を進むが、死神の姿は人間に見えないので、カラスを連れた不審者に目をとめる者はいない。
松山孝三が入院している病室の前に来ると、中から看護士と見られる女性の声が聞こえた。
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