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「ああ、俊彦に会えないうちは死ねねぇなぁ。」
松山は、今度は俊彦、俊彦と繰り返し始めた。
まずいな。死ぬ人間に未練が残っていると、何かと面倒なことになる。死に納得できない人間の意識が、その場に残るのだ。人間はそれを幽霊と呼ぶ。
「最後に話したのは、いつだったか…」
松山は小机に目をやる。机の上には、花瓶と本、そして写真立てが置いてあった。
松山はおもむろに写真立てを手にとって、懐かしそうに眺める。
「田中さん、見てくれ。わしの息子だ。」
松山が手に持った写真を見ると、そこには息子と思われる男性が、家をバックに笑顔で写っていた。
その顔を見て、私は思わず自分の目を疑う。
ギグルも「これは…」と困惑を隠せない様子だ。
「これがあなたの息子さんか?」
私が写真を指差して尋ねると、松山は「ああ、息子の俊彦だ。」と誇らしげに言った。
写真に写った男性は、私が知っている者によく似ている。ここまでそっくりな人間がいるだろうかと思うほどだ。
「俊彦にさえ会えれば、思い残すことはないんだがなぁ…」
松山は手に持った写真をテーブルに戻す。
こんな偶然は滅多にない。それに、ギリギリではあるが、規則にも触れない。私の頭にある考えが浮かんだ。
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