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「息子は見舞いに来ないのか?」
と私が尋ねると、松山は
「あー、仕事が忙しいしなぁ。俺も若い頃はバリバリ働いてたもんよ。あの頃はなぁ…」
と、息子のことではなく自分のことを話し始めた。
「私が息子さんを連れてきますよ。」
と言うと、松山は話をやめ、
「あんた、俊彦を知ってるんか?」と目を輝かせた。
「ああ、知っている。」
「そりゃあ、ありがたい!いゃあ、感謝するよ。」
松山がそう言っていると、先ほど食事をさげた看護士が部屋に入ってきた。
「松山さん、どうしました?」
「ああ、佐々木さん、聞いとくれ。もうすぐ息子が見舞いに来るんだよ。」
「松山さん、私は佐々木ではなく、高野ですよ。」
看護士は名前を間違われることに慣れているのか、笑顔で訂正する。
「松山さん、ナースコールを押されましたよね?どうされました?」
「ナスコールぅ?」
松山は自分がしたことが完全に分かっていない様子だ。
「ベットのわきにあるボタンは、非常時以外押さないでくださいね。」
高野と名乗った看護士が松山に注意する。
その横を通って、私は病室から廊下に出た。
「田中さん、また来てくれよ。」
松山が私に話しかけるそばで、
「田中ではなく、高野ですよ。」と看護士が言っているのが聞こえた。
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