通常任務

7/7
前へ
/61ページ
次へ
「息子は見舞いに来ないのか?」 と私が尋ねると、松山は 「あー、仕事が忙しいしなぁ。俺も若い頃はバリバリ働いてたもんよ。あの頃はなぁ…」 と、息子のことではなく自分のことを話し始めた。 「私が息子さんを連れてきますよ。」 と言うと、松山は話をやめ、 「あんた、俊彦を知ってるんか?」と目を輝かせた。 「ああ、知っている。」 「そりゃあ、ありがたい!いゃあ、感謝するよ。」 松山がそう言っていると、先ほど食事をさげた看護士が部屋に入ってきた。 「松山さん、どうしました?」 「ああ、佐々木さん、聞いとくれ。もうすぐ息子が見舞いに来るんだよ。」 「松山さん、私は佐々木ではなく、高野ですよ。」 看護士は名前を間違われることに慣れているのか、笑顔で訂正する。 「松山さん、ナースコールを押されましたよね?どうされました?」 「ナスコールぅ?」 松山は自分がしたことが完全に分かっていない様子だ。 「ベットのわきにあるボタンは、非常時以外押さないでくださいね。」 高野と名乗った看護士が松山に注意する。 その横を通って、私は病室から廊下に出た。 「田中さん、また来てくれよ。」 松山が私に話しかけるそばで、 「田中ではなく、高野ですよ。」と看護士が言っているのが聞こえた。
/61ページ

最初のコメントを投稿しよう!

197人が本棚に入れています
本棚に追加