【わたし と あたし と きみ】

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「生きよう」と、彼は言った。 「生きたい」と、彼女は言った。 2人はこの世に誕生してからずっと一緒に生きてきた。 たった2人だけで。 だが、ある日神は彼の命を奪った。 それは。雷のように突然の出来事だった。 彼女は、彼の命が神に奪われてから、何度も一人で自問自答を繰り返してきた。 しかし、答えは一向に見えてこない。 そこで上にいる神に尋ねた。 「どうして彼だけが? 私達の何が違ったの…? どうして彼だけが命を奪われなければいけないのですか…。 神よ教えてください。」 しかし、上にいる神は何も答えてくれなかった。 すると、下にいる神が突然現れこう言った。 「元来、人とは神の映し鏡のような存在。 必要最低限の力と知識を与えて創ら(つくら)れた。 人が持つ感情、それは神が持つ感情。 上にいる神は今まで気づいていなかったことがあった。 自分にも妬み(ねたみ)の感情があることに。 上にいる神は幸せそうにしている二人を妬んだ(ねたんだ)のだ。 そして、男はその上の神の妬み(ねたみ)によって殺された。」 下にいる神はそのように言うと、静かに下の世界へと帰っていった。 その言葉を聞いた女は嘆き(なげき)、怒った(いかった)。 そして、人類最初の殺人を行った。 それは、自分自身を殺すことだった。 その光景を眺めていた上にいる神は、自分の心の弱さ、惨めさ(みじめさ)、汚さを戒め(いましめ)、二度と同じ過ちを犯さないということを固く誓った。 そして、新たに一組の男女を創った(つくった)。 名前はアダムとイブ。 一般的に言われている人類の始まりとなる2人。 だが、実はその前に一組の悲劇に見舞われた男女がいたことはあまり知られていない。 果たして彼らは本当に存在したのだろうか? それは神のみぞ知るところである。
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