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ぽつぽつと並ぶ街灯をたよりに僕は路地を歩いていた。
今夜も収穫はなしか…。
諦めて帰ろうと通りに出る、少し大きな通りとはいえ深夜の交通量はほとんどないに等しい。
エリ…ごめんな…。
小さくため息をつきながら歩道を行く僕の横を一台のタクシーが通り過ぎた。
次の瞬間、タクシーが急ブレーキをかけた。何かがぶつかる鈍い音と悲鳴が夜の街に響く。
しかし、運転手は車から降りる事なく窓から身を乗り出すと
「ちっ…やっちまった!」
そう言ったかと思うと、そのまま車を発車させた。
僕はタクシーのテールランプが闇に吸い込まれるようにに消えていくのを見送った。
そして車道に何かが転がっているのが見えた。街灯の仄かな光に照らされた黒い塊。
それはまだ微かに動いていた。
近づいてよく見る。車に撥ね飛ばされアスファルトに叩きつけられた、それはまだ息をしていた。
全身を漆黒の闇に覆われたような黒い…猫…いや…犬だ!
そいつはアスファルトに横たわり前足をまるで犬かきをするように動かしていた。息も荒い…目には涙が浮かんでいるかのようだ。僕に気付くと必死で体を起こし這いずってこようとしている。
僕は鞄からタオルを取り出すと、そいつをくるむようにして抱き上げた。
さあ早く帰ろう…。
僕は急いでエリの待つアパートに向かった。
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