第零話

2/8
前へ
/468ページ
次へ
空が泣いている。 そう思わせてもおかしくないほど、雨が降る日の事だった。 ここ、城下町にある屋敷には雨が降っているにも関わらず、陽光のような暖かさの灯が灯る。 こんな雨模様の日には似つかわない場所であった。 外装は贅沢の粋を結集して作られているため、見る者の足はその屋敷の近くで止まってしまう。 そんな屋敷の一つで今、一人の少女が目を見張って立ちつくしていた。 恐怖の色に染まる薄茶色の双眸はある一つの物体に視線を置く。 そこから微動だにしない。 そして、蚊の鳴くような声で小言葉が発せられた。 「お母さん………?」 その声に続き、今度ははっきりとよく響く声で言葉が紡がれる。 「お父さん!」 そして走り出そうとする少女、目的は未だに寝ている両親を起こすため…… 否、 寝ているはずだという希望に縋ろうと必死なだけ。
/468ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3533人が本棚に入れています
本棚に追加