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――……ポタッ
何かが唇に触れる…。
――水?
…ううん、これは、――涙
ゆっくりと目を開けると、アリスは薄暗い部屋の中にいた。
「―…あれ?私、確か…」
キョロキョロと辺りを見渡すと部屋の壁はあらゆる書物で埋め尽くされておりいくつもの扉が取りつけられている。
白兎を追い掛けて穴に飛び込んだけれど肝心の白兎どころか誰もいない。
思わず上を見上げたが果てしなく闇が広がっているばかりで天井が見えることはなかった。
(このエプロンドレス…いつ着替えたのかしら?穴に入って落ちてる時にはすでに着てたのよね)
ヒラヒラ揺れている裾を摘む。
「やぁ、よく似合ってるよ」
突然した耳元で発せられた聞き覚えのある声に肩がビクリと震えた。
「あ、貴方…っ!?」
「…チェシャだよ、アリス」
(…おかしい、さっき見たときは誰もいなかったのに…)
「…どうしたんだい?」
チェシャと名乗る男はアリスの不安げな表情を読むと目を細め口が裂けるんじゃないかというほど吊り上げて笑った。
「…なんでもないわ」
(そうよ…、そんなことより追い掛けなきゃ)
チェシャに背を向け扉に向かって歩き始めた。
「そうだよ、アリス…キミは追い掛けなくては行けない」
チェシャの言葉に振り向き訝しげに見上げる。
「僕はいつでもキミの側に…」
チェシャは先程と変わらない表情を浮かべたままエプロンドレスのポケットを指差す。
ポケットを探ると何か入っている。
(……鍵?)
「アレだよ」
チェシャは一つの扉を指差すと徐々に姿が闇に覆われていく。
「ちょ、ちょっと待っ…」
「…覚えていて、アリス。
…ボクはいつもキミの側に」
そういうと、チェシャの姿は完全に闇の中に消えてしまった。
手のひらに握り締めていた鍵を見つめる。
「…行かなきゃ」
無意識に出た声に気付かないまま扉の鍵を開ける。
―――カチリ。
ゆっくりと開く扉に誘われる様にアリスは外の世界に足を踏み入れた。
―――パタン…
闇の中に浮かぶ男の顔。
その表情は目を細めて口は裂けるように吊り上げている。
…忘れないで――
キミが望むなら僕は…
「おかえり…アリス」
...Do you continue?
Yes or No?
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