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これ以上は時間の無駄だと判断した杉原は仕方なしに話を進めることにした。
「なんの情報が欲しーんだよ?」
(女神)
淡々とした相手の返答に杉原の顔色が変わる。
しかし、すぐにそれは呆れた表情に戻った。
「わかってねーな加賀原さんよ。あいつの居場所なんて誰にも察知できねーよ」
(どうかな。あの気難しい女は、お前にだけ心を開いていた。てっきりお前に惚れてんじゃないかと思ったよ)
せせら笑いが腹立たしい。自分の聴覚を誤作動さえできればミュートにしてやりたいなと杉原は考える。
(気分を悪くしたか?冷たい男だな)
杉原の冗談には応じなかったくせに、どうやら杉原をからかう分には冗談にも付き合うらしい。
嫌な奴だ。そう、本当に嫌な奴だ。
こんな奴に限って突出した才能を生かしているのだから尚更のこと憎たらしい。
(どの道お前はこの交換条件に応じるよ。女神の信頼を裏切ろうとも、それが女神にとって一番安全な方法だからな)
「はん、担当があんただって時点で安全性なんてねーよ」
(安心しろ。護衛の二人は俺の駒じゃねぇ。それに女神の件は最重要項目の一つだ。さすがに人手不足の上の連中も、前科だらけな俺を選抜したりしないさ)
開き直った皮肉を愉快そうに奏でて、男は杉原の返答を待つ。
「……くそったれ。地獄に落ちろ」
(何度か落ちたさ)
せめてもの悪態を、それでも男は飄々と受け流した。
(さて、取引成立でいいよな?)
しまいには締めまであちら側のペースだ。杉原としては面子がない。
今まで後輩には見せたこともないような渋面で、彼はただ黙って肯定する。
それぐらいしか出来ることがなかった。
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