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「あ、うん、よろしく、クユイヒ」
そう呼んだ時、エトの顔が不快感を示すように歪む。
「エトって呼べよ。お前リルアの家で世話になるんだろ? 俺も父ちゃんがギルドで仕事してる間は預けられてっからよ、気楽にいこーぜ!!」
エトの言った『父ちゃん』という言葉に反応して、ついフェロンは顔を伏せてしまう。頭に浮かぶ家族の顔。
(今頃、母さんは泣いてるかもしれないな。マリアは怒ってるか、もう嫌われてるかな。ああ、でもペンダントだけは壊さないでほしいな……)
思い出すだけで不安に襲われる。会いたい気持ちに歯止めが利かなくなりそうになる。
まだ一日も経ってないのにこれじゃ先が思いやられるな、と考えていると、皆の視線が自分に集中しているのに気付いた。
「え? えっ? な、何ですか?」
「いや、だってよ? 主役の意識だけがどっか逝ってんのに始めらんないだろ」
フェロンが悪魔の祝福を受けた出来損ないだとアグフォートに知られる以前は当然のようにあった『心配される』光景。
僅か数日の隔離生活で、まさかそこまで忘れてしまうとは思わなくて、その事実にフェロンは、ぶるっと身体を震わせる。
「んじゃ主役が還ってきた所で……乾杯!」
「かんぱ~い!!」
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