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その後、ぐっすり眠るフェロンを背負って家に連れ帰ったリルアは、三ヶ月前に作ったフェロンの部屋のベッドに寝かせる。
ベッドと本棚と勉強机しかない、必要最低限の部屋。
ヴァレンス家では必要ないもので溢れた生活をしていたはずなのにな、とリルアはフェロンの髪を撫でる。
「もう少しワガママを言ってくれていいんだぞ? 可能なら叶えてやるから」
ん……、と声を漏らして手足を動かすフェロンの目に、涙が浮かぶ。
「本物の家族の夢を見ているんだな、また……」
彼は新しいものが欲しいのではない。取り戻したいのだ。だが、それはいかに優れた魔術師でも不可能だろう。
しかし、その中の一部だけならば叶えてあげられるかもしれない可能性に気付く。
それを可能にするにはフェロンをこれまで以上に、それこそ本当にAランク魔術師と互角以上に渡り合える実力をつけさせなければいけない。
決意したリルアが頭を撫で続けていると、フェロンは笑顔になる。
頬に残る涙の痕跡を指で消し、そっと額に唇を落としてから部屋を出た。
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