桜花に誘われ

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僕が孤蝶と出会ったのは万緑の春の事だった。 昼下がりの午後。桜満開のこの刻を僕は庭の桜並木で過ごす事を日課にしていた。 最近気になった小説を片手に、草生いる桜の木陰で横たわる。僕は淡々と過ぎる日常の内、この時間が何より好きだった。 今日もその時間を有意義に過ごそうと木陰に腰を下ろした時だった。 見上げた桜の花の間から零れた光に僕は一瞬眼を閉じた。 ―何をしている?― すると、突如として聞こえた女の物であろう声。僕は驚き、眼を開けた。 僕の瞳に映ったモノ、桜の枝に腰を下ろし、僕を見下ろす女の姿だった。 「今、僕に話し掛けたのは君か?」 その女は無表情のままに頷いた。僕は一瞬にこの女が普通とは違う人世から逸脱した存在なのだと理解した。 はだけた着物を纏い、その柄は色鮮やかな揚羽蝶で彩られ、長く伸びた艶やかな髪は、見惚れるほど、淫美に艶やかだった。 女はとても美しかった。 「ここはとても君みたいな人が入れる場所じゃない。 なぜ君がここにいる?」
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