桜花に誘われ

4/4
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
次の瞬間には僕は目の前にいる異質とも言える女に底知れぬ興味が湧き出していた。 僕は背筋に妙な感覚を覚えた。言葉になら無い高揚感。それは先の見えない暗闇、一世の我が人生に一筋の光明が差したように感じた。 「女、僕から一つ頼みがある。 そんなに僕が面白いのならば、是非話し相手になってはくれないか? 茶くらい持てなそう」 すると、女は僕の発言を聞くなり、枝から飛び降り、目の前に舞い降りた。間近に見るその瞳は揺るぎなき光を宿し、一閃に僕を見つめる。一瞬でも気を抜けば、僕を呑み込みそうな深さをその瞳は持っていた。針積めた緊張を呈した。 「私はこの見事な桜に魅せられ、立ち寄っただけなのだが、……よかろう。 丁度私も暇をもて余した所だ。一時、主の友人となろう」 その言葉に緊張の糸が音をたて切れた。強ばった体の力が抜けていく。次の瞬間には僕は意識を無くしていた。 ―――― 僕は名も素性も知れぬ、一人の女と友人となった。 それが良き選択であったかは、この時の僕では知る由もない。しかし、この出会いが定めであり、孤蝶の言う必然であった、僕はそう思う。 春の陽射し優しげな午後、僕は間違いなく、孤蝶と出会ったのだ。これが僕の存在の意味であったのだと僕は切実に願う。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!