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優しいモノに僕は意識を呼び覚まされた。瞼を開け、瞳に映ったモノ。それは美しき女だった。鼻先に香る優しき香り。包むように温かい感触。
全てが優しく、どこか懐かしい気持ちになる。
「人間、加減はどうだ?」
すると、僕に気がついた女がそう言葉をかけてきた。僕を伺うその顔には色は見られない。
「すまない。
昔から体が弱い方いんだ。だからよくある事なんだよ。
それでも最近はましになったと思っていたんだが、こういうものは不意に来るんものだな」
体の中心から何かずっしりとした気だるさが僕の体を支配している。完全に僕の意思を体が聞き入れてくれない。
すると、女は膝にあった右手を僕の額に乗せた。僕の両目は手に遮られ女の顔は見えない。女の手はひんやりと冷たく、しかし何か暖かさのような感覚があった。幾分か体が楽になった気がした。
「主の虚弱な体質は生まれ持った物だろう。諦めろ」
女の冷たげな言葉。
「…諦めろか、今日知り合ったばかりの人間に君は手厳しいな。
だが、僕の周りの者たちよりはましな事を言う」
僕は本気でそれを思う。一瞬過る女中や従者たちの声。僕を心配する言葉。でも、その言葉が上っ面だけの薄い物だと、僕は知っている。僕はそれに居心地の悪さを感じる。だからか、外で過ごすようになった。
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