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それは、郵便局の二階から始まりました。今年のゴールデンウィークは七日までお休みだった私は、振り込みをしようと駅前の郵便局に来ていました。しかし、連休明けのせいか一階のATMの前には長い行列が出来ていて、私は仕方なく二階の窓口で振り込みをしようと階段を上って行きました。自動ドアを入って行くとたくさんの人が順番待ちをしていて、椅子はもう満杯に埋まっていました。そして、窓口から少し離れた場所にも数人が順番待ちをして立っていました。『やっぱり、こっちも混んでるか。』 私は自分の番号のカードを引くと、一度階段を下りて外に出て、他の用事を済ませてからまた郵便局の二階に戻って来ました。自動ドアを入ると相変わらず人はたくさんいて、そして白髪の老人がなにやら窓口で二人の女性局員に対して大きな声で文句を言っていました。聞くともなしに聞いていると、その老人はどうも郵便局のシステム自体に文句を言っているようでした。窓口のお姉さん達に言ってもどうしようもないような事を、この老人はさっきから延々と文句を言っていたのでしょう。そして、彼が文句を言うために独占する形になった窓口と担当の女性局員は、もう完全に他のお客様に対しての業務サービスの提供が出来なくなってしまっていました。残ったもう一方の窓口では、若い三十代ぐらいの男性が一人でお客様の対応に追われていました。なので、周りのお客さん達ももうだいぶうんざりしているようで、二階の空気はついさっき来た時とはまるで違ってどこかイラついた重たい空気が流れていました。と、その時一人の女性の番号が呼ばれて椅子が一つ空きました。私は座ろうとして、隣の椅子に座っていた五十代ぐらいの中年の女性とふと目が合いました。『ずっとですか?』私が尋ねると、女性は『そうなんですよ。』と明らかに困った顔をして眉をひそめました。その瞬間、私の中の《カウンセラースイッチ》が入りました。私は彼女に軽く頷くと、自然に老人のいる窓口へと向かっていました。
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