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青空の下、堤防に腰掛けた俺は、高く澄んだ空を見上げている。
吹き抜ける風は春だと言うのに冷たく、だけど心地良く俺の頬を撫でる。
……なにを、するべきなんだろう?
縁起の悪い夢から醒めたような気分。
なにかをする予定があったはずだ。
思い出そうとしても思い出せない。
ただ、なにかをしなければいけない、という使命感の残滓が心の奥底にこびりついている。
既視感ではなく。未視感でもなく焦燥と言う形で俺を責め続けている。
見上げた空は、高く、遠く――――。
・・・・・・・。
やることは探せばたくさんあるはずだ。
そのための時間は、少ない。
耳を澄ませば周りからは何も聞こえてこない。
行き来する車の騒音も聞こえはしなければ、騒がしい人の雑踏さえも聞こえない。
・・・ただ波が浜辺に虚しく打ち付けられる音だけが俺の耳に届いてくる。
その音はひどく無機質なものに聞こえる。
一定のリズムを保ちながら、ただただ何の意味もなく浜辺を濡らす事を知らせ>るだけの音。
そんな無意味さを考えると、心地よいはずの潮騒がとても悲しい音に聞こえてくる様な気がする。
一つ息を吐き、胸ポケットからタバコとライターを取り出す。
手持ち沙汰な気分になると、なぜかいつもタバコが吸いたくなる。
シュボッ。
火山の噴火口の様に赤く燃えているタバコの先端を眺め、二度三度口をつける。
ぼんやりと不規則に上がる煙を眺めている、俺にとっての暇つぶしはこうして
いるだけで十分過ぎる程だ。
キーンコーンカーンコーン
タバコを吸いながら波の音に耳を傾けていると俺の後ろから古ぼけた音色のチャイムが聞こえてくる。
腕時計を見てみる・・・1時ちょっと前を指していた。
・・・少しだけ休憩しようと思って堤防まで来たが、どうやら一時間近くはここに居てしまったらしい。
いつの間にか短くなったタバコを携帯灰皿にねじ込みズボンについた砂を払い
立ち上がる。
「よっと。」
そのまま堤防を飛び降り、行く当ても無いまま歩く。
ザァ・・・・。
さっきとは打って変わり、温かい風が強く吹く。
・・・心地よい春風と共にやってくる、幾多の想い。
これから幕を開ける、この空に訪れる物語。
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