魔法と陰陽

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 魔法陣が完成すると黒い杖をロカへ向ける。フワッとロカの体が優しく空中に持ち上がった。  桜花は黒き杖をゆっくりと動かしロカを魔法陣の中央へ移動させた。 「よし……次はあの人達ね」  倒れている二人の女性に杖を向ける。愛菜とOLは、うつ伏せに倒れていたので、壁に向けて寄り掛かる様に移動させた。 「……これで大丈夫だよね? 後は救急車の手配を――あっ!! ……と、ロカ君の血……これはまずいよね」  アスファルトを染め上げる血を見て、杖を血液に向ける。  ……瞬時に血液がパキパキと音を立てながら凍り始め完全に凍りついた血液は個体に変化。個体と化した血液に再び杖を向けて、魔法陣に移動させる。鞄も忘れず魔法陣へと移動。  それと同時に、結界内に異変が起きる。  ――ピシッ  ガラスにヒビが入る音。空間崩壊の予兆音。 「桜花!? 結界が崩壊しそうよ!!」 「解ってる!! ……私が結界壊す必要無くなったね」  桜花の考えでは移転魔法を使う前に、結界を壊す予定だった。襲われた人達をいち早く発見して貰う為に。  結界が崩壊するのなら魔力節約になり助かる。 「じゃあ、転移魔法行くよ?」  ホワに伝えると「わかった」と言いながら、桜花の肩へと移動した。  桜花は青い瞳を目蓋で閉じて、杖を前に差し出す。  体内の魔力波動を集中させ、魔力を杖に集め…… 「『天と地を創設されたし魔導の理よりて天は地の彼方へ移動を乞う!! 【メントムーヴィング】』」  詠唱と同時に、杖を魔法陣がある地面に向けて振り抜く。魔法陣は桜花の魔法発動に呼応して、白い輝きを放ち始める。  その輝きは地面から噴き上げ桜花達を呑み込む様に光の柱へとなった。  魔法陣から輝き放つ光の柱が徐々に落ち着き始め、光陣が徐々に消え始める。  先程まで噴き上げていた光が嘘の様に消えれば、そこには桜花達の姿はなく、魔法陣だけが薄く白い輝きを放っていたが……魔法陣も徐々に消えていく。  その場には何事も無かった様に二人の女性が、ビル壁に背中を預け眠るように座り込んでいる。  そこには、ほんの数分前に命を賭けた死闘があったとは思えない静寂だけが残されていた……。
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