10.幸せのカタチ

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寛斗のマンションから、中古で買った一軒家へ、引っ越しをした。 妊娠初期の私を気遣うように、寛斗は力仕事を懸命にする。 小さな縁側で夕日を眺めているときだった。 寛斗がそっと隣へ座って、私の肩を抱いた。 「なぁ……まだ、幸せは怖いか…?」 「……どうかな。寛斗を信じている分、もっと怖いものになったかも。」 「ははっ。マジかよ…」 「………」 「俺、全力で、梓を幸せにするから。不幸せなんか感じないぐらい、毎日笑わせてやるよ。」 「寛斗。そんなこと、軽々しく言っていいの?」 「軽々しくなんかねぇよ。」 「男はみんな…そう思うのは最初だけ。」 「そんなことないって……俺が証明するよ。」 「ふふん。やってみなさいよ。」 「おお、やってやるさ。」 抱かれた肩と、下腹が少し熱く感じた。 あぁ命が、この体の中にいるんだと感じた瞬間だった。 「梓…」 寛斗が、右のポケットから何か出した。 私の左手を自分の膝の上に乗せて、その小さなものを薬指に器用にはめ込んだ。 結婚指輪だった。 細い銀色のリング。 寛斗は黙ったまま、もう一度ポケットに手を入れて、今度は私の手のひらに、もうひとつのリングを置いた。 寛斗が微笑むと、「俺にもはめて。」と言った。 そっと左の手をとり、ぎこちなく不器用に、私は薬指に指輪をはめる。 すると、魔法にかかったように、寛斗の左腕が上がり、ゆっくり、震えながら、私に指輪を見せ、また笑った。 「俺が、いつもお前のこと、敏感に感じててやるから…。安心して、人のこと心配してろよ。」 「ぷっ…なにそれっ…。」 寛斗らしい言い回しだったけど、それだけで、一生分の幸せを得た気がした。
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