22人が本棚に入れています
本棚に追加
デパートの洋服売り場で、アクセサリを見物する客たち。
「パパぁ、これ買ってよぉ。」
と高校生の不気味な声が聞こえる。
「しょうがないなぁ。」
また男も、彼女の言うことを聞いていた。
そのなんとも言えない光景は、私にとって、この世の終わりにも見える。
以前の私を重ねていた。
「アズ~…決まったの?」
「あ、ごめんごめん。」
寛斗の声で、我に返った私は、自分で決めた洋服を手に、レジへと向かった。
私は出会ったころの、寛斗と同じ歳になり、子供も4歳と2歳の、女の子と男の子をもうけていた。
寛斗は相変わらず、くだらないことで、私と子供達を笑わせてくれている。
左腕の器具は手放せないけれど、不自由ではなかった。
寛斗はあれから、記憶力が良くなり、なんでも覚えてる。
正直、忘れていいこともあるけれど。
ただ、彼は夫としても父親としても、申し分ないくらいの愛情がある。
私は普通の幸せを得た。
ううん、それ以上だ。
それは時に不安になる材料でもあり、元気になれる、魔法のようなものでもある。
そうやって、私を惑わすけれど、そんなふうに日々を重ねて、愛はまた、深くなるのだと、彼らが教えてくれる…。
いつかきっと、あの高校生も、私のように本当のキスをできる日が来るといい。
いつかきっと、思い出す時がくる。
本当の愛を。
《完》
最初のコメントを投稿しよう!