3340人が本棚に入れています
本棚に追加
/153ページ
.
「晴れてる」
寒い季節では無いとは言え、いつまでも裸の侭でいるのは流石に肌寒い。
面倒だとも思いながら風邪を引く前にと漸くベッドから下りて、脱ぎ散らかした服を集めて着ていると、何をしているのかカーテンの隙間から外を覗いていたソイツが一言呟いた。
「あ?」
「予報じゃ雨だったのに」
さも嫌そうなその言い草に、ふぅん、と気の無い返事をしながら着替えを続ける。
なんだ?
その、晴れてちゃ駄目だ、みたいな言い方は。
「大樹ぃ」
「んー?」
何を言っているのか一瞬気にはなったけれど、また女王様得意の独り言だろうと完結して、そういえば小腹が空いたと胃の辺りを軽く撫でた。
壁掛け時計を見れば丁度9時を回った所で、『晩飯』の2文字が頭に浮かぶ。
「折角晴れてるんだからさ、店行かない?」
「行かね。
てかお前も休みだろ」
同居している恋人は未だ帰宅していない様で、部屋の外からは物音もしなければ人の気配も何も無い。
とすればまだ遅いのだろうか。
バイトだ遊びだ大学だと、なんだかんだと忙しくて部屋に帰って来たのは実は3日振りだったりする。
その間、顔を合わせるどころかあっちも勉強にバイトにと忙しいだろうと連絡さえ取っていなかったから相手の予定もわからない。
一体今、どこで何をしているのか。
大方、アルバイト先の24時間営業の本屋で残業させられているか、大学の図書室で寝こけて今頃慌てふためいているか、そのどちらかだろうと結論付けて、ならば冷蔵庫に何か作り置きはあるだろうかと思案を巡らせた。
今しがた飛んできた誘いの言葉には勿論、一刀両断、断りを入れる。
今日は久しぶりに恋人の美味い手料理が食いたい気分なのだ。
.
最初のコメントを投稿しよう!