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「 はぁ…、」
これで全てが終わった。
…終わらせてしまった。
そう思うと同時に、今まで強張っていた肩の力が吐いた息と共にするりと抜け落ちて、またその場に崩れ落ちそうになる。
「行かな、いと…」
女々しくて、未練がましくて、名残惜しくて。
そんな自分を言葉で叱咤して、行くべき方向へ顔を上げた。
そうだ。
行かなきゃ。
ここにいつまでも居たってなにもならない。
どうしようもない。
だって、もう此処は
自分の居る場所ではないんだから。
一歩、マンションの廊下を歩み出す。
----振り返りたい。
もう、一歩。
----あの人の声が脳裏に蘇る。
また、一歩。
『好き』
また、一歩。
『付き合って』
また、一歩。
『一緒に住まねぇ?』
ゆっくり、ゆっくり。
エレベーターのボタンを押すと、自分が下りてからは動いていなかったのか直ぐに扉が開く。
「ばいばい…、」
乗り込んで行き先の階を押して扉が閉まる刹那
廊下を振り向いたけれど当たり前の様に誰もいなくて。
期待なんかして馬鹿みたいだ。
追いかけて来てくれないか、なんて。
居た事を知られない様にしていたくせに。
息を、音を、気配を殺して。
自分のしている事の矛盾。
動き出したエレベーターの中で一人、呟いた。
「幸せに、なってね」
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