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「ただいま…」
小さな小さな声で、帰りを告げた。
午後8時。
『ぁ…、』
『ゃ、ダメ』
『だめ?なにが?』
『イ、ジワルし、ない、でぇ…』
『意地悪って…こう言う事とか?』
『ャ…っぁ!』
耳を擦り抜ける艶声。
またか、とその声の主達に届かぬ溜め息を吐いて、そっとスニーカーを脱いで足音を殺して自室へと急いだ。
学生の身分には分不相応な広い間取りの2LDK。
玄関から先、リビングに入る手前の真っ直ぐな廊下に並んだ2部屋。
部屋の向かい側にはトイレと風呂場。
せめて手前の部屋を選んでいれば、この不快な声も少しは聞かずに済んでいたのだろうか。
リビングの明かりが点いていないから部屋中真っ暗で。
唯一漏れるのは、手前の部屋の僅かに開いたドアの隙間からの明かり。
足元も危うい暗さに、一瞬スイッチに手が伸びたけど
廊下の電気を点ければ気付かれる。
自分が帰って来た事が。
それは、イケナイ。
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