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. 事後の余韻の残るベッドに下着だけを身に付けて、身を投げ出す格好で愛しい恋人の事を想いながら軽く微睡んでいると、頭上からねっとりと甘く誘う声が降って来た。 続いてぎしりと音がして、脇腹辺りでベッドの沈む感覚。 人の気配。 「ねー、大樹ぃ」 「あー?」 寝そべったまま肩越しに頭だけ振り返ると、そいつがシャワーを浴びて濡れた髪にタヲルをかけて、裸の肩に流れる水滴もそのままに、淫を含んだ眼差しで俺を見ている。 それから、つるりと指先で撫でられたのは素肌の背中。 「噂ってホントだったんだね」 「、あ?」 一体何の噂だと眉を潜めると、クスクスと肩を揺らして目を細めて愉快そうにソイツが笑う。 「大樹はぁ、一回ヤッたら終わり。 ソイツには一切興味無くなっちゃって、すぐに顔も名前も忘れちゃうー、って」 「…はぁ?」 明るく発せられた言葉に眉根を寄せて、口を即いたのは不快を表す声だった。 確かに、日毎夜の相手を変える自分にそんな噂があるのは知っていたし、それは一回限りの事ばかりが多い。 あながち嘘ではない。 けれど、すぐに名前も顔も忘れてしまう、なんて。 そんな人非人の様な事… 「あー。…あぁ」 失礼な。 流石にそんな薄情者ではないだろう、と言いかけて、今迄関係した相手の顔と名前を思い出そうとしてみたけれど、その記憶が酷く曖昧である事に気付いて己の事ながら愕然とした。 …思い出せない。 .
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