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なんて事だ、と頭を抱えて思い悩む程ショックだった訳ではないけれど、でも他易く思い出せる相手というのが誰一人もいなくて軽く衝撃を受けたのは確かで。
暫し考えあぐねて眉根を寄せたまま静止してしまう。
確かに忘れても何ら支障のない相手。
只の遊び、お互いの都合の良い時だけの暇潰し。
「ねーねー、僕の名前は?」
「…ミズキ。」
名前は何かと問われて即座に答えたのは、ほんの少し意地もあったのかもしれない。
目の前にいる奴の名前位知っている、と。
上の名か下の名かは知らないけれど。
だって、そんな事はどうだって良いじゃないか、名前なんて。
呼べて、個人を識別出来ればそれで構わない。
家族でも恋人でも、友人でさえない、通り過ぎて行くだけの関係で、そんなに深く知る必要がどこにある。
まして、その思い出せない相手達だって果して俺の事を覚えているのかもわからないんだ。
噂が先行するのなんて良くある事。
多少悪い男と言うレッテルが張られているみたいだけど、それでも尚、こうして寄って来る奴もいるって事は、それをまんざらでもないと思うからであって。
「へぇ、覚えてたんだぁ」
悪い男と言う不名誉なレッテルの、言い訳にも似た理由付けを、自分に良い様に完結させようとしていた思考を途切れさせたのは、またしてもソイツの愉快そうな笑い声だった。
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