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. 僕が始めて大樹を目にしたのは入学式のその日、式の時間より少し前の事だった。 自宅から電車通学する事になっていた僕は、入学前から混む時間を避けて少し早く登校しようと決めていて、そして予定通りまだ人も疎らな時間に学校に到着していて。 とは言っても入学式当日、流石にする事も行く所も無くて。 だから暇を持て余した僕は、式の準備に忙しなく走り回る【生徒会】と書かれた腕章を付けた先輩方を横目に見ながら、校内をあてもなくふらりと探検気分で歩いてみる事にしたんだ。 この学校の校舎は2棟あって、表玄関のある教室棟と特別教室棟。 渡り廊下は1階と3階。 直角に配置された建物の内側には中庭があって、中学の時の学校見学で来た時、外で昼食を摂るのも自由だと説明を聞いた。 この日は例年になく暖かい日で、教室棟の1階を歩いていた僕の目が自然とその中庭に向く。 青く繁る芝生の上に座って本を読んだら、今日みたいな日はさぞ気持ちが良いだろう、と。 そう思ってみると興味が沸いて、中庭に出てみる事にした。 日陰を作る立ち木。 整えられた小さな花壇。 さほど広くは無いそこをゆっくり歩いていく。 後ろには人が多くなって来たのか、ざわめく校舎。 けれど一歩踏み出す度に少しずつ、音が小さくなる。 そして静かな中庭の端まで来た時、そこに… 大樹がいた。 .
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