3338人が本棚に入れています
本棚に追加
.
僕が始めて大樹を目にしたのは入学式のその日、式の時間より少し前の事だった。
自宅から電車通学する事になっていた僕は、入学前から混む時間を避けて少し早く登校しようと決めていて、そして予定通りまだ人も疎らな時間に学校に到着していて。
とは言っても入学式当日、流石にする事も行く所も無くて。
だから暇を持て余した僕は、式の準備に忙しなく走り回る【生徒会】と書かれた腕章を付けた先輩方を横目に見ながら、校内をあてもなくふらりと探検気分で歩いてみる事にしたんだ。
この学校の校舎は2棟あって、表玄関のある教室棟と特別教室棟。
渡り廊下は1階と3階。
直角に配置された建物の内側には中庭があって、中学の時の学校見学で来た時、外で昼食を摂るのも自由だと説明を聞いた。
この日は例年になく暖かい日で、教室棟の1階を歩いていた僕の目が自然とその中庭に向く。
青く繁る芝生の上に座って本を読んだら、今日みたいな日はさぞ気持ちが良いだろう、と。
そう思ってみると興味が沸いて、中庭に出てみる事にした。
日陰を作る立ち木。
整えられた小さな花壇。
さほど広くは無いそこをゆっくり歩いていく。
後ろには人が多くなって来たのか、ざわめく校舎。
けれど一歩踏み出す度に少しずつ、音が小さくなる。
そして静かな中庭の端まで来た時、そこに…
大樹がいた。
.
最初のコメントを投稿しよう!