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あの時の僕は、だからといって大樹に一目惚れした訳でもなく。
あいつとも3年間クラスが一緒なのか、煩くなるんだろうな、そんな思いで眺めていたような気がする。
まるで他人事。
三津木が言うには
大樹は中学の頃からこの辺りでは有名な遊び人で、特定の相手を作らず誘われれば誰とでも関係を持ち、男も女も問わない。
けれど、だから全てに於いて好い加減かと言うとそうでもなくて。
それなりに友人も彼を慕うし人望もある。
成績は中の上、背は高校に入ってもまだ伸びているらしく180を越える日もそう遠くはないだろう。
「でさ、唯一不思議なのは、嶋村と関係を持った誰もが'彼氏''彼女'って名乗らない事なんだよなぁ」
「なんで?
別に不思議じゃないだろ、そういう関係だってお互い割り切ってるんなら」
「んー、幸也にはわからん?
相手を独り占めしたいって気持ち。
誰もさ、嶋村に対してそう思わんのかな」
「さあね、遊びは遊び、なんだろ?」
僕は当事者ではなかったし未だかつて誰かを好きになった事もなかったから。
だから理解が出来ない、と首を傾げると
「幸也もそのうちわかるようになるさ」
そう、三津木が会話を終わらせて締め括る。
確かにあの時、僕には分からなかった。
何故誰も大樹を独占したいと、自分こそが彼の特別なのだと名乗りをあげないのか。
その不思議が。
だってあの時の大樹は、僕にはすごく遠くて。
同じクラスにはいたけれど、入学式からその後、話しをする事も稀で会話と言えば挨拶する位。
大樹はいつも人に囲まれていて、僕は教室の自分の席でいつも本を読んでいて、たまに三津木が話しかけて来てくれる位で。
だから本当に、他人事。
まるで別の世界の話しの様で。
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