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. 余りに僕が否定したからなのか、それ以来三津木がその話しを振って来る事はなかったけれど。 その変わり僕はあの日を境に嶋村を意識して目で追う様になってしまっていた。 今までは何も考えていなかった筈なのに。 教室に目立つ奴がいると目が行く、だから見ざるを選ない。 その筈だった。 けれどあれ以来、三津木が言った「幸也は嶋村が好き」。 その言葉が胸の内に留まって気になって仕方が無い。 そして、気になり出すと次第に僕の鼓動は異常反応を示す様になる。 「はよ、御剣」 「お、はよ」 朝、教室に入って適当なところで仲間とたむろしている嶋村とすれ違う時、何気なく挨拶を交わすだけでどきりと馬鹿みたいに心拍数が上がる。 最初はそれだけだったのに、次第に嶋村が視界に入るだけで息の詰まる様な、緊張する様な感覚に襲われる様になって。 もしかしたらこれは『好き』なのかも知れない。 否、僕が嶋村を見ていたのは、ずっと好きだったから。 そう、自分自身思う様になるのにそれから差程時間はかからなかった。 今更になって冷静に考えてみれば、それは感情と思考のすり替えだったのかも知れない。 人の心情として、煩ければ物珍しくて目が行くし、多く人と接する事に慣れていない僕が挨拶だけの関係の大樹と言葉を交わす時、僅かに緊張したってなんらおかしい事じゃなかったのに。 三津木のあの一言で僕は変わってしまった。 思えば僕は、思い込みが激しい方だったのかも知れない。 .
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