極上の贄

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  「…………………」  うとうと、とまどろむ美癒。  脳裏には先程、解き終えた数式がぐるぐると渦巻いていて。けれど、数字を理解する前に掻き消える。 『――……        』  そして、ふいに潮騒に似た音が美癒を包み込んだ。  寄せては返す波の音。  ざわざわ、と鼓膜を震わす――いや、違う。葉擦れの音だ。  悪戯な風に煽られ、木々が揺れる音。  ざぁーっと、強くさらに音を立てる風が、美癒は背を押し、そして――足を踏み出させた。  
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