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歯の根が合わなく、ただ震えているだけの身体に命じる。だけど、全く言うことを聞いてくれない。
そうしている間にも、彼が近づいて来ていて――冷たい手が私の頬に触れた。
「…………その表情は、いいな。負の感情を押さえ込もうと必死さが、なんとも」
くつくつ、と彼は喉の奥で笑う。そして、私の瞳をあわせるように覗き込んで――双眸を細めた。
「――我が血肉となり、共に生きよ」
* * *
これが、私と彼――ラピィツ・フェラーガとの出会いである。
妖魔が蔓延る世界では、人間などただの餌だ。
それはこの世界の住人ではない私も過言ではなく――私、結咲美癒が極上の贄として、確定された瞬間でもあった。
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