プロローグ

5/5
前へ
/95ページ
次へ
   歯の根が合わなく、ただ震えているだけの身体に命じる。だけど、全く言うことを聞いてくれない。  そうしている間にも、彼が近づいて来ていて――冷たい手が私の頬に触れた。 「…………その表情は、いいな。負の感情を押さえ込もうと必死さが、なんとも」  くつくつ、と彼は喉の奥で笑う。そして、私の瞳をあわせるように覗き込んで――双眸を細めた。 「――我が血肉となり、共に生きよ」  * * *  これが、私と彼――ラピィツ・フェラーガとの出会いである。  妖魔が蔓延る世界では、人間などただの餌だ。  それはこの世界の住人ではない私も過言ではなく――私、結咲美癒が極上の贄として、確定された瞬間でもあった。  
/95ページ

最初のコメントを投稿しよう!

686人が本棚に入れています
本棚に追加