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「朝、冷えますよ?」
「ん~、まぁそうだろうけど仕方ないな。2人じゃ運べねぇし」
「いえ、だから、その、風邪引いたら大変ですし……」
雪が言葉を止めた。視線が天井やら床やら色んな所に行ってる。そして時間が経つにつれ、顔が赤みを帯びてきていた。
「……私の部屋で寝ませんか?」
とても小さな声。その時の雪の視線は俺の足元を向いていた。
雪の部屋で? って事は……うん、雪の部屋の床で寝るってことじゃないよな、だからつまり……
「い、いや、でもそれは悪いし……」
俺は手をブンブン振ってそう言った。顔が熱くなってくる。たぶん今真っ赤だ俺。
「そう……ですか。わかりました。すみません……」
雪が残念そうにそう言って、リビングから出ていこうとする。
「あ、いや、ちょっと待って」
それを、俺は呼び止めた。
最近になって、ようやくわかった気がする。雪が、俺の事を好きでいてくれてるという事が。
もちろんそれは去年、俺と雪が付き合う事になった時……もしかしたらそれよりも前からそうだっただろう。
でも、それを俺は素直に認められなかった。何て言うか、雪が俺の事を好きだと俺が思ってしまう事が、どうしようもなく自分勝手に思えて。
それでも、ついこの間俺の勝手な行動で雪と別れて、そうしたら雪がピアノを弾かなくなって飯を食う事すらしなくなって。そして俺が謝った時に雪に泣きながら言われて、ようやくわかった。
自分勝手に思えてとか、そういう考えが自分勝手だったって事が。雪の事なんて本当は何も考えてなかったって事が。
それに、雪は俺の事を好きでいてくれてる。せっかく雪がそう思ってくれてるのに、理解しないと感謝もできない。
だから、俺は自分に言い聞かせた。雪は、俺の事を好きでいてくれている。俺の事を必要としてくれている。
だからなのか、何となくわかる。今のはたぶん……
「やっぱり、雪が良いって言うんなら……お言葉に甘えようかな」
俺がそう言うと、雪は嬉しそうに笑って頷いた。
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