機械になりたい少年

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 少年は近くにあった金属の棒を持つと、お人形の頭めがけて思いきり振りかぶったんだ。  それが何の衝動から起きた行動なのかは分からない。ただ考えられるのは、少年は博士のいいなりであって、博士に仇なすものは消し去るのみ、っていうことが回路に働いたのだろう。  ばきぃっ、ぐしゃ、ぐしゃ。  頭の回路が壊されて、お人形はぱたりと動かなくなってしまった。  あぁあぁ、なんて可哀想なお人形さんなんでしょう。  お人形さんは二度と動きません。でもね。少年はそれを見ても何も思わなかったんだよ。  正真正銘、少年の心はロボットになってしまったってわけだ。  ただし、血の通ったロボットなんだ。  少年はまた無言の時間を過ごしている。  何かすべきなのだろうかと思うけれども、命令は好きにしていいということだけ。それじゃあ少年が動けないわけだ。  だって少年はロボットだから。具体的な行動が何も思い浮かぶはずがないだろう?  だんだん時の流れが分からなくなってくる、ロボットの少年。  起動しているのか、休んでいるのか。それさえ自分では判断しようがない状況になってきたわけだ。  当然月日も分からない。 少年は何も食べることもなくただ座っているだけ。  それからまたしばらく時間が過ぎて、少年は思った。  いっそのこと、死んでしまえば。  少年はロボットのはずだったのに、いつしかそういうことを考えるようになった。  どうしてだろうか。  だんだん起動するたびに視界が狭まってきたからだろうか。それはボクには分からないんだけれどもねぇ。  沢山の昼と夜を過ごして。  次に目が覚めた時、そこには少年をロボットにしてくれた、あのピンク色した髪の博士が立っていた。  やぁ、起きたんだね。こんにちは。元気にしていたかい?  博士の言葉に少年は淡々と答えた。  はい、ご主人様。ご主人様の言うとおりに、毎日好きなように過ごしました。  そうか、それはよかったよかった。  そういえば、そこのオレのお人形さんは頭が潰れているけれど、君がやったのかい?  ニッコリと笑顔の博士が、少し離れた床の一点を指さしながら訊いた。  そこには壊れたまま放りっぱなしだった、お人形さんが転がっていた。黒々とした動力源の油がお人形さんから流れ出して、床に染みを作っていた。 →
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