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少年は閉じていた目を開けた。
いや、正確に言えばそれは、かつて少年だったモノだった。
ご主人様、はじめまして。
少年の硝子のような瞳が、ご主人様である博士を見つめていた。
こんにちは、まだ名前のない少年くん?
博士が眼鏡を光らせて、皮肉そうに笑った。
それに対して、かつて少年だったモノはニッコリと笑顔で答えたんだ。
ご主人様、ボクに名前を与えていただけたら嬉しいです。
そうしたら、ボクはご主人様の為だけに一生懸命働きます。
少年は博士の前で、まるで道化師か執事か、っていうような挨拶をした。
右腕を柔らかく胸の前に持ってくる、あの仕草だ。
そうして足を片方後ろに下げ、少年はぺこりと頭を下げた。
それを眺めながら、我ながら上手くいったなぁなどと思いながら博士は考えた。
そうだねぇ。へきる。碧留はどうかなぁ?
君にあげた身体の少年が、以前そんな名を持っていたんだけど。どうだい、不満かなぁ?
いいえ、綺麗な名前だと思います。
ボクに身体を与えてくれた少年ですか……ご主人様に逆らうとは、さぞかし歪んだ性格の子供だったんでしょうね。
碧留と名付けられた少年は、不気味に頬を歪めてくすくすと笑う。
それはその少年の外見にぴったりとした表情だった。
それを見た博士は、今度こそ自分の作った機械の少年は完璧だな、と確信してニヤリと笑った。
お前は本当にイイコだね。碧留。
これからオレの為に頑張って働いておくれよ。
そう言って、博士は壁の棚から血まみれの柄をしたウサギのぬいぐるみを取り出して、少年にはい、と渡した。
機械の頭脳を持つ生身の少年は、それを受け取って、目を細めて綺麗に笑った。
銀色の髪と、碧色の眼に、血色の赤で出来たぬいぐるみはぴったりとピィスがはまったかのように、似合っていた。
はい、ご主人様。喜んで。
片腕にぬいぐるみを抱いた少年は、もう一度、滑らかな動きであのお辞儀をした。』
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