序章

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   ◆   ◆   ◆  内裏の中枢、紫辰殿──天皇や重鎮らが集まり、淡々と朝賀が行われていた。そして最後、『鬼』の議題に入るや否や皆が口を噤む。しかし、空気を打ち破るかのように誰かが溜め息を溢すと、彼らは次々と口を開けた。 「……『鬼』、か」 「昨今、『鬼』の被害は増すばかり。橘の邸にも現れたと聞きましたぞ。怨霊より、げに恐ろしい姿を持つとか」 「橘の大殿(おとど)は病に臥せられた。今尚、死の淵を彷徨っておられる」 「かの『鬼』に何人の陰陽師らが喰われてしもうたことか」  再び沈黙が落ちる。 「御霊会(ごりょうえ)を執り行うべきでありましょう」  凛とした声が広間に響いた。臣下達は瞠目し、かの忠臣を見た。  御霊会──。  この時期に……。  忠臣は皆を見渡し、最後に御上に判意を求めた。高御座(たかみくら)に座する天皇は無言で頷いた。 「このままでは民の心に不安が募るばかりであろう。何もせぬより意義はある」  天皇の言葉に異議を申す者などおらず、急遽御霊会の準備が行われることとなった。    ◆   ◆   ◆  二日後の夜──。  時期外れの御霊会が執り行われると聞き、人々は神泉苑に集っていた。しかし、神泉苑の中へは関係者以外立ち入ることは許されず、人々は警護する武士の苦労など全くもって介さず、入口から一目見ようと躍起になっていた。
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