序章

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 人々が寝静まり、京の都から灯りが消える。ぽつぽつと見える橙色の灯火は、主人の屋敷を警護する武士達の唯一の光。  今宵は新月──。  されど、ちらちらと天華を降り注ぐ黒雲が昊(そら)を覆い、星の明かりを遮って京を照らさず。  子二つ時(午前零時)。  陰の力が最も高まり、魑魅魍魎が闊歩する刻(とき)──朱雀大路に黒い影が彷徨い始める。一つ、二つ、三つ……。それらは何もない場所から音もなく現れ、増え続ける。  『人』ではない。  それらは辺りを見渡し、獲物の『匂い』を嗅ぎ付けると、朱雀大路から道を逸れ、ばらばらに散っていく。  一つは羅城門へ。  大火事、天災……、家や家族を失い、天涯孤独で身寄りのない人々が集まり寝泊まりする場所。彼らは服も破れ、顔も泥に塗れ、食糧もなく、飢え死にするのを只待つのみ。  この門それ自体も火事に見舞われ、焼け落ちたその姿からはかつての栄光も見えず、最早京の人々にとって墓場とされていた。  彼らに一つの影が近付く。  それは一人の男の前で立ち止まった。 「…………ん……?」
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