528人が本棚に入れています
本棚に追加
/1004ページ
彼らの絶叫はまるで新月の闇を切り裂くが如く、京の都に響き渡る。一条戻り橋、河原院、六波羅、そして神聖なる朝廷──大内裏の宴の松原から。
人々は恐れた。
しかし、身を縮こまらせ、只々怯えることしか出来ぬ。
人々は祈った。
彼ら異形から自分達を救いたまふ神の降臨を──。
◆ ◆ ◆
シャン…シャン…シャン……。
鈴の音が京の都を徘徊する。
しんしんと舞い降りる天華の中、朱雀大路を往く一つの影あり。
魑魅魍魎か。
それとも──。
影は、とん、と音を立て、建礼門の前で止まった。そこは大内裏の入口にして神聖なる門。警備の武士達が影の出現に対して警戒し、その影に向かって松明の一本を投げ捨てた。
闇の中か現れるら一人の女性。武士達は思わず喉を鳴らした。
白い上衣に真紅の袴を身に纏い、冬の冷たい風を受けて艶やかな漆黒の髪を靡かせる。腰に提げられた小さな鈴は、彼女が一歩踏み出す度に清音を奏で、闇を照らす光の如く、彼女に近付く魑魅魍魎を浄化する。
魅入られたように己を見つめる武士達をすら気にも留めず、彼女は静かに建礼門を見上げた。
すると、彼女の背後を一つの影が横切った。一つ、二つ……と、その影は彼女を囲む。
しかし、彼女を畏怖するかのように、影はそれ以上近付くことはなかった。
やがて東の昊が藍色に彩り始め、山の向こうより現す陽光が京の都を照らし出すと、影はすぅと光の中へと消えた。
そして、女性もまた、白袖を翻し、天華の中へと消えていった。
最初のコメントを投稿しよう!