序章

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 彼らの絶叫はまるで新月の闇を切り裂くが如く、京の都に響き渡る。一条戻り橋、河原院、六波羅、そして神聖なる朝廷──大内裏の宴の松原から。  人々は恐れた。  しかし、身を縮こまらせ、只々怯えることしか出来ぬ。  人々は祈った。  彼ら異形から自分達を救いたまふ神の降臨を──。    ◆   ◆   ◆  シャン…シャン…シャン……。  鈴の音が京の都を徘徊する。  しんしんと舞い降りる天華の中、朱雀大路を往く一つの影あり。  魑魅魍魎か。  それとも──。  影は、とん、と音を立て、建礼門の前で止まった。そこは大内裏の入口にして神聖なる門。警備の武士達が影の出現に対して警戒し、その影に向かって松明の一本を投げ捨てた。  闇の中か現れるら一人の女性。武士達は思わず喉を鳴らした。  白い上衣に真紅の袴を身に纏い、冬の冷たい風を受けて艶やかな漆黒の髪を靡かせる。腰に提げられた小さな鈴は、彼女が一歩踏み出す度に清音を奏で、闇を照らす光の如く、彼女に近付く魑魅魍魎を浄化する。  魅入られたように己を見つめる武士達をすら気にも留めず、彼女は静かに建礼門を見上げた。  すると、彼女の背後を一つの影が横切った。一つ、二つ……と、その影は彼女を囲む。  しかし、彼女を畏怖するかのように、影はそれ以上近付くことはなかった。  やがて東の昊が藍色に彩り始め、山の向こうより現す陽光が京の都を照らし出すと、影はすぅと光の中へと消えた。  そして、女性もまた、白袖を翻し、天華の中へと消えていった。
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