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「どうしたんです?」
鶸は首を傾げ、穴から続々と現れる彼らに訊いた。すると、一人の少年が薫を指した。
「……“天”の奴、そいつの精気を喰ったんです」
「あらまあ……どうでした?」
鶸は未だにふっつ伏せている天狗を見やった。天狗は腕を上げ、グッと親指を立てた。
「……だそうですよ? 良かったですね、薫さん」
「……は? え?」
話を振られた薫は当然付いて行けず困惑し、少年達と小さな生き物を交互に見た。
「……全く……女子(おなご)と見れば味見しおって……。鶸殿に昔、こてんぱんにされたのを忘れたかえ?」
優雅に尻尾を揺らし、てくてくと歩いてくる小さな猫を薫は目で追った。
そして、猫は天狗の下に行くや、その小さな手からシャキン! と鋭い爪を出した。
「…………程々に」
鶸がそう言った瞬間、彼の絶叫が響き渡った。
「紹介しておきましょうか。彼は阜──凜と武人さんの一人息子です」
隠していても仕様がないと、鶸は彼らを整列させた。
『この家で暮らす以上、どのみち知らなければならないことですから』
壁に開いた穴から風が吹き込み、雪と身に突き刺さる寒さが広間に入ってくる中、鶸は平然とした顔でそう言った。
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