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「これは化猫の『公猫』」
鶸は小さな黒猫を顔の前まで抱き上げた。公猫と呼ばれた黒猫は細長く伸びて腹を見せた。
「鶸殿! 乙女のお腹を見せるでないわ!」
「可愛いのに……」
足を上げ、じたばたする公猫を放し、今度は天狗を抱き上げた。
痛々しい赤い四本線が交差している。小さな雫を目尻に溜め、されるがままの彼をまるで人形みたいだ、と薫は思った。
「これが、天狗の『天天』。──略して“天”」
「皆から“天”と呼ばれておる。薫もそう呼べ。宜しくの」
ズズッと鼻を啜り、よっ、と右手を上げて愛想良く自己紹介する天狗に、薫は親近感が湧き、ふわりと笑い「よろしく」と言った。
「わいは京都稲荷神、三尾の狐──瑳狐(さこ)」
自分の背後からひょいと現れた宙を浮く狐に薫は疑問を抱いた。
三尾なのに尻尾が一本という事実、京都の神が長野にいる理由(わけ)、狐が狐のお面を被っている理由。
そして、彼が『居た』という事実には驚いた。
「他にも色々いますが、それは追々……」
突然、ピピピと携帯電話の音が鳴った。薫の絶叫に殺されかけた、未だに倒れている初老の男性から聞こえた。
彼は胸ポケットから携帯電話を取り出し、通話に応じた。
「……どうした。……そうだ……ああ……分かった」
短い返事をし、彼は通話を切った。
「お開きですね」
「申し訳ない」
「いえ、切りも良いですから……構いませんよ」
閣僚達は鶸に一礼し、遠慮気味に広間を退室していった。
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