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閣僚達が退室して数拍、鶸が突然立ち上がった。
先程までの賑やかさは、もうない。この広間に入ってきた時と同じ……いや、それ以上の重苦しい雰囲気が広間を包んだ。
「……私も長居は出来ませんからね。──ある程度説明はしましたし、信じる信じないは貴女の勝手です。しかし、貴女は信じざるを得ないでしょう」
淡々と話す鶸に薫も立ち上がり、鶸の袖を掴んで引き止めようとする。
まだ理解出来ていないことだらけだ。鶸の話もまだ信じきれていない。真剣に語る彼女に最初は信じてしまったが、良く良く考えると矛盾している。
けれど、あの日、『真実』を見てしまったのもまた事実。
「どうすれば、いいんですか? 私、どうしてここに……鶸さんはどうして私を養子なんかに」
『誰にも言うな』、そう言われれば黙っている。薫があの日のことを誰かに話しても、きっと誰も信じてくれないだろう。
関わって欲しくないなら、脅してでも黙らせれば良い。けれど、鶸は薫を深山家の養子にした。
何の為に──?
「……私の結界をすり抜け、貴女は見た。理由は……それだけで十分です」
鶸は『何も』教えてくれなかった。薫は掴んでいた手を、そっと放した。
「薫。貴女のことは凜に一任しています。冷たい様ですが、私は貴女を試します。私の結界をすり抜けた事実──。貴女に力があるかどうか……」
「……力なんて……私には……」
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