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──どうすれば良い。
今ならまだ引き返せる。鶸はその道を残してくれている。
鶸が薫を急いで捜し当てたのも、記憶隠蔽した際の空白期間を最小限に抑える為。矛盾を生じさせない為だと天天は言う。
平和な日常は欲しい。けれど、それで良いのだろうか。
鶸達は危険を省みず、『影』から人々を守っている。そんなこと、今まで知らなかった。当然だ。鶸達は隠れていたのだから。
だが薫は、今、知った。
知ってしまった。
逃げたい、死にたくない──そう思うのは当然かもしれない。それは鶸達だって一度は思ったことだろう。
それでも逃げずに戦っている。得体の知れぬ『影』から。彼女達の場合、義務かもしれない。それでも──。
『ノーブレス・オブリージュ』。
高い地位や権力を持つ者は、相応の社会的責任を負わなければならない。いつかの本で読んだ。
どんな力でも、使わなければ何の役にも立たない。権力であれ、知識であれ、技術であれ。
あるのだろうか。自分の中に。
鶸の言う力が。
神々の力を扱う力?
それで、お母さんや翔太達、美咲達を守ることが出来る?
あるなら、それは平凡な薫に唯一出来ること。
知られなくても良い。
自分を娘として愛してくれた母へ、姉と慕ってくれた弟妹達へ、親友へ、唯一の恩返し。
そして、自分の為にも──。
前に進もう。
逃げない。
鶸達と共に戦う。
後悔するかもしれない。
けれど、逃げたくない。
二度と──。
二度とお母さんの涙を見たくない。
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