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薫は鶸を追い掛けた。
途中廊下で「うぎゃ!」と言う声が聞こえた。誰か分からなかったが、「ごめん!」とだけ言って薫は走った。
鶸は既に玄関を出て、吊り橋を渡っていた。彼女の隣に小さな小さな影が見えた。
「鶸さん!!」
薫は大声で鶸を呼んだ。
鶸は振り返った。薫が自分を追い掛けてきたのが見えた。
「薫さん……」
はぁ、はぁ、と息を切らしながら吊り橋を駆け渡り、薫は鶸に追い付いた。
その後ろから瑳狐達も追い掛けてくる。
薫は何度か深く息を吸い込む。その様子を鶸はじっと見ていた。
「……私、やってみます。どこまで行けるか分かりませんけど……逃げたくありませんから」
「…………何故?」
「何故って……」
「死ぬかもしれませんよ?」
「分かってます」
「…………。…………分かってませんよ。貴女はまだ綺麗事を言っているだけです。──でもまあ、決めたんですね?」
「……はい」
鶸は薫の瞳を見つめた。その決意が本物か否か。
揺れのない瞳。
この少女は近い内、分かるだろう。自分達だって怖くない訳がないのだ。失うことを──。
人は経験すれば分かる。この少女もまた失うのだ。
その時が来れば──。
「分かりました。では春休み中は、修行してくださいね?」
見事な満面の笑顔で言った。薫は彼女の明るさに呆気に取られた。
自分が受けることを、実は分かっていたのではないか?
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