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◆ ◆ ◆
そうして早一月、薫には何の変化もなかった。今、こうしてここにいるのが惨めに思えてきた。一月ぶりに訪れた鶸に、薫は申し訳なく思った。
膝の上で握り締める拳は、血が滲み出そうになる位強い力が込められる。
「…………まあ、一月で開花するとは思ってませんでしたし。されたら、私が困ります」
「え?」
薫は顔を上げた。……困る?
「私でさえ一月は掛かったのに、最短記録を書き換えられては、私も自信喪失しちゃいます」
嘘吐け。
薫以外の皆がそう思った。
鶸が自信喪失するなんてあり得ない。世界中から戦争が無くなろうが、日本沈没やら富士山噴火やらの天変地異が起ころうが、それはあり得ない。
「狗燎達とも仲が宜しいようで、良かったです」
あの時、廊下でぶつかったのが狗燎だった。
薫が瑳狐達と家に戻ると、額に大きな赤い瘤を付けた彼が、宙に浮きながら仁王立ちで待ち構えていた。
…………雷ならぬ炎が落ちた。
プスプスと黒い煙を出す薫を雪女の『早雪(さゆき)』が冷やし、やり足りないのか暴れる狗燎を白蛇の『冰蛇(ひだ)』が締め上げた。
こうして小さな生き物達との奇妙な御対面を為したのだ。
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