528人が本棚に入れています
本棚に追加
/1004ページ
「鶸さん……」
「何ですか?」
「…………いえ……やっぱり良いです」
あの時、何故鶸が嘘を吐いたのか訊きたかった。
けれどまだ一月、鶸が真実を教えてくれるとは思えない。逃げ道を残してくれたように、それも自分の為ではないか、と薫はそう納得することにした。
今は──。
「……さて、そろそろお暇しますね」
◆ ◆ ◆
薫達は、真っ直ぐ山を下りていく鶸の背を見送った。
「……ねぇ、狗燎」
「何じゃ?」
「鶸さんって……どんな人?」
「怖い」
「悪魔」
「魔王」
狗燎、天天、瑳狐──三つの声が揃った。
「……そ、そんなに?」
薫は若干引いた。
「薫はまだ知らないのでしたわね。鶸様の恐ろしさを」
袖口で口許を隠し、早雪が言った。天天や瑳狐が言うと自業自得にしか思えないが、彼女が肯定するからには相当なものなのだろう。
「……鶸様を怒らせるべからず。巫の間では有名だ」
ひらひらと薫の肩に乗った冰蛇が、遠い目をして語った。
「…………優しい人だと思うんだけど……」
薫の呟きに、凜達も心の中で溜め息を吐いた。
最初のコメントを投稿しよう!