第一章

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「鶸さん……」 「何ですか?」 「…………いえ……やっぱり良いです」  あの時、何故鶸が嘘を吐いたのか訊きたかった。  けれどまだ一月、鶸が真実を教えてくれるとは思えない。逃げ道を残してくれたように、それも自分の為ではないか、と薫はそう納得することにした。  今は──。 「……さて、そろそろお暇しますね」    ◆   ◆   ◆  薫達は、真っ直ぐ山を下りていく鶸の背を見送った。 「……ねぇ、狗燎」 「何じゃ?」 「鶸さんって……どんな人?」 「怖い」 「悪魔」 「魔王」  狗燎、天天、瑳狐──三つの声が揃った。 「……そ、そんなに?」  薫は若干引いた。 「薫はまだ知らないのでしたわね。鶸様の恐ろしさを」  袖口で口許を隠し、早雪が言った。天天や瑳狐が言うと自業自得にしか思えないが、彼女が肯定するからには相当なものなのだろう。 「……鶸様を怒らせるべからず。巫の間では有名だ」  ひらひらと薫の肩に乗った冰蛇が、遠い目をして語った。 「…………優しい人だと思うんだけど……」  薫の呟きに、凜達も心の中で溜め息を吐いた。
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