第二章

2/94
528人が本棚に入れています
本棚に追加
/1004ページ
 小さなボールが道路の真ん中へと転がっていく。それを追い掛け、幼い子供が車の陰から飛び出したその時──。  キキー……!  ドンッ、という鈍い音と共に小さな体が宙を舞った。  ──まわってる。  みんな、まわってるよ。  おそらが。じめんが。  どうして。  ──どうして?  宙を舞っていた子供の体は、重力に従って叩き付けられるように地面に落ちた。運転手は急いで座席から降り、子供に駆け寄った。 『大丈夫か、しっかりしろ!』  しかし、子供は虚ろな瞳のまま、ぴくりとも動かない。アスファルトにじわじわと赤黒い水溜まりが広がる。  運転手は胸ポケットから携帯電話を取り出し、救急車を呼んだ。 『しっかりしろ! 今、救急車を呼んだからな!』  ──なにをいってるんだろ。  なにもきこえない。  からだが、うごかない。  いたいよ。  事故を目撃した人々が二人の周囲に集まる。誰かが止血しろと言った。誰かがハンカチを子供の傷口に当てる。しかし、子供の体から溢れ出る紅い液体は止まることを知らない。 『君! しっかりするんだ!』  人々が子供に声を掛ける。けれど──。  みんな、なにをいってるの?  いたいよ。  だれか、だれか──。  たすけて……!  子供が声なき声を発した、その時だった。 『生きたいか』
/1004ページ

最初のコメントを投稿しよう!