528人が本棚に入れています
本棚に追加
/1004ページ
小さなボールが道路の真ん中へと転がっていく。それを追い掛け、幼い子供が車の陰から飛び出したその時──。
キキー……!
ドンッ、という鈍い音と共に小さな体が宙を舞った。
──まわってる。
みんな、まわってるよ。
おそらが。じめんが。
どうして。
──どうして?
宙を舞っていた子供の体は、重力に従って叩き付けられるように地面に落ちた。運転手は急いで座席から降り、子供に駆け寄った。
『大丈夫か、しっかりしろ!』
しかし、子供は虚ろな瞳のまま、ぴくりとも動かない。アスファルトにじわじわと赤黒い水溜まりが広がる。
運転手は胸ポケットから携帯電話を取り出し、救急車を呼んだ。
『しっかりしろ! 今、救急車を呼んだからな!』
──なにをいってるんだろ。
なにもきこえない。
からだが、うごかない。
いたいよ。
事故を目撃した人々が二人の周囲に集まる。誰かが止血しろと言った。誰かがハンカチを子供の傷口に当てる。しかし、子供の体から溢れ出る紅い液体は止まることを知らない。
『君! しっかりするんだ!』
人々が子供に声を掛ける。けれど──。
みんな、なにをいってるの?
いたいよ。
だれか、だれか──。
たすけて……!
子供が声なき声を発した、その時だった。
『生きたいか』
最初のコメントを投稿しよう!