第二章

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   ◆   ◆   ◆  初夏の香りが彩る。  昊は晴天。山々は心地好い暖かな陽射しに青々と覆い繁り、風は爽々としている。  新緑の山々に抱かれるようにして、この街はある。  山々に囲まれた土地にも拘わらず、麓に田畑はあれど田舎らしさはない。高いビルが聳え、マンションが建ち並ぶ。多くの人はせっせと幾つもの路線が走る大きな駅へと集まっていく。  街は今日も平和だった。  新年度が始まり、一ヶ月が過ぎた五月中旬──。  体に似合わぬ大きなランドセルを背負い、小学一年生らしき子供達が競争しながら学校に入っていく。  そんな様子を微笑ましい目で見ている一人の少女。不意にポンと肩を叩かれ、後ろを振り向いた。 「おっはよ、薫」 「あ、おはよ、千春ちゃん」  浅香千春。  森宮美咲と同じく、薫の親友。腰まである長い黒髪を高い位置で一つに結い、見事なポニーテールとなっている。  今年度から導入された制服──紺のブレザーが良く似合う。 「薫、ホント子供好きね~」 「弟達がいたからね」 「そっか。どう新しい家は」 「楽しいよ」 「虐められたりしてない?」 「全然?」 「それなら良いんだけどさ」  そう言って千春はブレザーを触る。 「まだ慣れないなぁ」  首元の息苦しさからネクタイを緩め、シャツの釦を二つ開けていた。 「三年は良いよねぇ。私服でも良いんだから」 「一年だけだからね」  薫は眉尻を下げ、灰色のチェック柄スカートを弄る千春を見る。 「誰が言ったのよ~制服にしろって」 「……さあ。でも私は好きだよ、これ」  きゃっきゃっと二人の横を小学生が駆けていく。 「確かに可愛いけどさ……」  そんな他愛ない話をしながら、二人は高校へと向かった。
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