第二章

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「薫~!」  他愛ない世間話をしていた時、突然自分を呼ぶ声が聞こえ、薫は教室のドアの方を振り向いた。 「悪ィ、数学貸してくれ」  茶髪の男子生徒が薫に近付き、パンッと両手を合わして懇願する。 「今日、曜日交代なの、すっかり忘れててさ~」 「馬鹿ねぇ、渡辺恭介(きょうすけ)」  彼が入って来るのとほぼ同時に登校してきた、薫の親友・森宮美咲。 「何でフルネームなんだよ。……しゃあねぇだろ? 人間忘れる生き物だ」 「威張ってどうする」  バシン、と美咲は恭介の頭を叩く。  渡辺恭介──彼もまた、かつてのクラスメイトである。  白峰児童養護施設の近くに家がある彼と薫は幼馴染みにあり、妖怪であるという線はほぼ無いに等しいのだが……。 「数学だよね。四限までには返してね」  そう言って、鞄の中から数学の教科書を取り出し、恭介に手渡す。 「サンキュー。数学、三限だから直ぐ返す」 「どうせ寝る癖に~」 「うるせぇよ!」  美咲の一言に毎回突っ掛かり、いつも負けるのが彼である。  が、繰り広げられる場所が近いせいか、最近はそこに聖が入って来る。 「医者になりたいなら、数学は必須だよ」 「うっ……。じゃあ、何なんだよ数列やら、sine・cosineやら……どこで使うってんだよ。日常で使わねぇだろ」 (確かに……)  同じく数学嫌いの薫は、数学と言えば美術の時間である。ノートの隅に小さな絵を描いては消すを繰り返す。そして、ネタが切れれば寝る。
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