序章

8/11
529人が本棚に入れています
本棚に追加
/1004ページ
 バチバチと音を立て、燭台にくべられた薪が燃える。  神泉苑内部では、『金光明経』や『般若心経』が法師らによって読経され、鼓や琵琶などの楽器が楽師らによって奏でられていた。また、それらに合わせて白拍子が彼らの中心で舞っている。  しばらくして、オオオオ、という唸り声が神泉苑上空を広く覆った。何処からともなく聞こえてきたその声に、武士は刀を、陰陽師らは数珠を構えて襲撃に備える。  その時──。 「オオオオ──!!」  近く。雄叫びが上がった。突如現れた黒い影が神泉苑を覆い始める。 「放て!」  源氏の頭領が武士達に命じる。火矢が一斉に放たれた。影は腕のようなものを伸ばし、向かってくる火矢を弾き飛ばした。そして、足を神泉苑の地に踏み込ませ、水面を大きく波立たせる。 「急々如律令!」  前に出た陰陽師達が一斉に術を放つ。しかし、黒い影は衝撃で後ろに反り返っただけで、効いている様子も見せない。  影は腕を振り切った。その風圧は凄まじく陰陽師達が吹き飛ばされる。 「ひっ、ひやぁあああ!!」  恐怖のあまり、武士の一人が弓矢を投げ捨て神泉苑から逃げ出した。それに釣られるように、次々と逃げ出す者が現れる。 「逃げるな! 撃て!! 法師ども、経を止めるでない!! 逃げ出した者は斬る!! 迎え撃て!!」  武士達はガタガタと震える体で弓を引いた。やはりとも言うべきか、放たれた矢は影に届くことなく落ちていく。
/1004ページ

最初のコメントを投稿しよう!