第二章

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「数列はまあ、さておき……sine・cosineは理系に必須だよ。sineは心電図や自然現象の計測に使われるし、tangentに至っては山の高さとかを求めるのに使われるしね」  流石、五月の実力テスト上位にいる人だ、と平凡な成績保持者の三人は思った。  転校してから二週間でテストを受け、余裕で三本の指に入るとは……。イギリスでは、どんな授業をしていたんだろう。  聖が会話に入って来てから、美咲と恭介の言い合いはこうして静かに終幕を迎える。  キーンコーン、と始業のチャイムが鳴った。 「やべ……じゃ、またな」  恭介は急いで自分の教室へと戻って行った。 「……であるからして──」  教師の説明も右から左へと聞き流す薫は、ぼーっと窓の外を眺めていた。  三階の中央付近にあるこの教室からは広々とした中庭が見渡せる。  公立にしては比較的広いこの高校。コの字に校舎が並び、中庭中央には木々が覆い繁った一つの小山──小山とも山とも言い難い中途半端なもの──がある。その周囲には木造ベンチが並んでおり、当然授業中である今は誰もいない。  いない筈なのだが……。  気のせいか、小山の木の先端に何やら黄色い物体が見える。  それは不規則に出たり、引っ込んだりしている。動いているのだから生き物だろう。  しかし次の瞬間、薫は目を疑った。
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