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飛んでる……。飛んで来る。黄色い物体がこちらにやって来る。
それは一瞬だった。
小さな黄色い物体はもの凄いスピードで三階より上に昇っていき、薫の視界から外れた。
暫くすると、上の窓枠からにょきっと黄色い山が二つ生えた。逆さまの山は徐々に隆起し、谷が陸続きとなる。
薫は嫌な予感がした。
まさか……まさか──。
何故ここに!?
こめかみに一滴の汗が流れ落ちた──気がした。
黄色の小さな大地に白い池が見えた。大地が迫り上がるにつれて面積を広げていく白い池には、黒い波紋が何かを描いている。
そして、黄色の大地に二本の黒い線が現れ──。
……目が合った。
微動だにせず数拍見つめ合う。
「…………ぬぁっ!!」
教師の長たらしい説明を、何とも奇怪な叫び声が遮った。
……『ぬぁ』って何?
教室にいる誰もが、決して真似出来ぬであろう薫の奇声に心の中で突っ込んだ。
後ろにいた聖は薫の見ている上方を見やった。しかし、何もない。綺麗に真っ直ぐなアルミの窓枠があるだけだ。
薫ははっと我に返り、教室を見渡した。
「…………深山、何だ。音楽室の幽霊でも見たか?」
似たようなモノを見ました──とは言えず、黄色い物体の正体を知る薫は、心の中でそう答えるしかなかった。
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